特集78-2 株式会社小原工業 製造部 石綿 聡さんをご紹介

職人の手仕事と機械化の両輪で義肢装具の現場を支え未来へつなぐ
企画業務部室長
小原 正泰さん

 戦後の復興がはじまったばかりの1946年、小原工業は創業しました。
 戦争や鉄道敷設時の事故などで手足を失った人々のためにできることはないか。戦争を経験した初代社長のそんな思いが原点となり、創業から一貫して、義肢装具の材料などを製造販売しています。
 「創業当時から製造しているのが『筋金(すじがね)』と呼ばれる、義足の骨にあたる部分。刀と同じ鍛造技術を使っていて、80年前から瀬田にある鍛冶屋さんと一緒に取り組んでいます」。そう語るのは、企画業務部室長の小原正泰さん。コストも手間もかかる鍛造を続けているのは、常にユーザーファーストの視点を貫いているから。「同様の企業はうちを含めて全国で2社のみ。カーボンファイバーなど様々な素材の筋金がありますが、昔ながらの鉄製を必要とする方は今もいらっしゃいます」。現在では製造されていない木製の義足にも対応。「長年愛用されている方々に必要とされる限り、在庫を保ち続けます」という小原さん。その言葉には、歴史と責任感が滲みます。現在、小原工業は四代目。義肢装具士が必要とするあらゆる材料と機械を扱う義肢装具の総合メーカーとして、評価され続けています。

 小原工業が今、大切にしているのは、伝統的な手仕事と機械化を両立させながら、高い技術を継承していくこと。製造部の石綿聡さんは「誰が作っても同じ品質になるように、いわゆる“職人の勘”に頼らず、可能な限り数値化し、記録を残しています。再現性の高い加工方法を探りながら、機械化を進めているんです」と語ります。「義肢は、患者さんによってサイズも用途も千差万別。義肢装具士さんがどんなものにも調整しやすいように、常に品質を一定に保って提供することが大切なんです」。

 商品開発にも精力的に取り組み、現在は、高機能でありながら販売コストを抑えた新型オーブンや、立ち座り時に
便利な『ベンダブルステッキ(曲がる杖)』などを開発中です。「『使う人を“見る”だけでなく“見入る”ことが大事』。これはうちの開発担当者の言葉です。そこから不便さに気づき、アイデアが生まれるのだといいます」とは小原さん。石綿さんは「うちの強みは、お客様の声が営業担当者から直で工場へ届くこと。ねじ穴の位置ひとつにも、迅速かつきめ細やかに、お客様のニーズに対応できるんです」と語ります。

 機械化は重要ですが、“人”でしか伝えられない技や感性もあります。
 昨年は『レジェンド』と呼ばれる新潟在住の義肢装具士の元で研修を実施。そこで学んだ革新的な技術を業界に広める取り組みも検討しています。「義肢の技術や品質の向上のために、義肢装具士さんが情報交換できる場がもっとあればいいなと思うんです。僕たちが業界の “接着剤”のような役割を担えれば」とは石綿さん。
 また、地域とのつながりも大切にしてきました。近年は近隣の小学校で義手・義足・インソールを使った体験授業を実施し、支援や配慮が必要な人との共生について考える活動も続けています。個人の工場見学も受け入れていて、夏休みの自由研究で訪れた小学生がお礼の手紙を届けに来たこともあったそうです。
 培ってきた技術や人脈の継承、さらにはユーザーに寄り添った新規開発も重ね、小原工業は義肢装具の未来を支える企業として歩み続けます。


 

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