特集77-2 社会福祉法人 藍 Factory藍をご紹介

障がいのある方の働く場として“生きている藍”とともに歩む

「ファクトリー藍」があるのは、にぎやかな通りに面したビルの一角。1983年から、藍染めや刺し子、織りなどを障がいのある方々の就労を支援するB型事業所として活動しています。理事長の大野圭介さんによると、区内で藍染めや刺し子をやっている工房は他にないといいます。
1階の染め場には、藍瓶がめがずらり。通所する“メンバーさん”たちが藍瓶に生地を浸し、もみ、絞り、水洗いを繰り返しています。「藍は生きているんです」と語るのは店長の仲本早苗さん。「毎日働かせたり、大量に染めたりすると、藍が疲れてうまく染まらなくなります。だから藍染めは月・水・金のみ。金曜に染まりにくいと思っても、月曜にはまた鮮やかな色に染まるようになるんです」。藍のいいところは、やり直しがきくところ。通常でも5~10回は重ねて染めるのだそうです。「思った色にならなくても、重ねて染め直せる。何度でもチャレンジができるのがいいですよね」。
「商品ありき」でなく「人ありき」一人ひとりの個性が光る手仕事を


2階の織りや刺し子をする工房では、藍染めの生地に刺し子などを施し、商品に加工しています。裁断した残りの不規則な端切れは、パッチワークとして利用。トートバッグなどの商品に生かされるのです。
「藍染めの原料となる『すくも』は非常に高価なもの。その上、みんなで時間をかけて染めたものです。無駄にはできません」と仲本さん。他にも、使わなかった生地を裂いて織り、マットに再生するなど、ここではすべてが『宝物』となります。
通所してくる方々は、やりたいことも得意なこともそれぞれ。ここでは「商品ありきというより、人ありき」だと仲本さんは笑顔を見せます。「刺し子は図案通りに刺せなくても、直線縫いだけで素敵なものができます。ただの直線も、細かく丁寧な目や、ざくざくだけれどどこか味のある目など、それぞれに個性があるんです。上手にできたものだけがいいわけではないので、面白いですね」。
一番大切なのは、メンバーさんが「今日も来られた」、「染められた」ということ。そこから「他のこともやってみたい」とか、「売れるものを作りたい」など、次第に意識が変わることが多々あるそうです。「ご自分が手がけた作品が売れると喜ばれます。もちろん、工賃にも反映されるんです。ここで自信をつけて一般社会に入っていく方もいれば、終の仕事場と考えている方もいらっしゃいます。憩いの場であり、居場所でもあるのです」と大野さん。
「ここは面白いものづくりができるということで、多くのメンバーさんが通ってくれていますが、さらに『また来たい』と思ってもらえるように、おいしいランチを用意するなどの工夫もしています。もちろん、工賃に還元していくことも大切です」。
藍の温もりを通じて日本文化と障がい福祉を世界に発信
作品は下北沢にある直営店『Factory藍SHOP』などで販売しています。「近年は外国人観光客が増え、海外のお客様がSNSに投稿してくださり、“いいね”がたくさんついたこともありました」と仲本さん。ファクトリー藍の活動趣旨を説明すると、そこに賛同して購入される海外のお客様も多いそうです。
大野さんは、「下北沢は若者や外国の方が集まる華やかで発信力のある場所。障がい福祉をはじめ、藍染めや刺し子など日本の伝統工芸も伝えていきたいですね」と語ります。今後の目標はECサイトの開設と量産体制を整えること。「藍染めは高価なものですが、うちは手に取りやすい価格です。より多くの人に魅力を届け、活動の輪を広げたいと考えています」。
藍の色合いと手仕事の温もりの中で、人が育ち、社会へとつながっていく。ファクトリー藍の活動はやさしく、そして、穏やかに広がっています。

大野 圭介さん
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