特集79-1 コミュニケーションを大切にして無垢の木のように長く愛される空間を
椅子づくりへの憧れが開いた
ものづくりへの道
八幡山八幡社を望む閑静な住宅街に佇む、天然木のエントランスが印象的なアンプインテリアデザイン。オーダー家具やリノベーションを中心に、住宅や店舗の内装も手がける会社です。代表取締役の小早川梓さんがこの道に進んだ原点は、女子美術大学でインテリアデザインを学んでいた頃に遡ります。「課題で椅子の10分の1の模型をつくることになったんです。並行して名だたる椅子のデザイナーについて学ぶうちに興味が湧き、自分が作った模型を実物にしたいと思い立ちました」。大学3年時に訪ねたのが世田谷区にあった旭川家具の店。「最初に模型を持っていくと、『これが現実の椅子の形になるわけがない。構造を一から勉強し直さなくちゃだめだ』と言われて。翌日からアルバイトとして毎日通いました」。そこで家具の設計や構造を学び、ものづくりの難しさと奥深さを知ります。「アルバイトの集大成として、模型を無垢材で形にしてもらいました。
社長や職人さんの意見を聞き、当初とは全く違う形の椅子になったのですが、それでも数年後には壊れてしまったんです。やっぱり椅子のデザインって難しい。いつかちゃんとしたオリジナルチェアを作りたいと思いました」


無垢材への思いを軸に築いた
長く愛される仕事
卒業後はアルバイト先の店にそのまま就職。結婚・出産で離れた時期を経て、パートで復職し、仕事と子育てを両立させるため独立を決意します。「二級建築士やインテリアプランナーの資格を取るほか、東京都の起業相談などにも通い、5年がかりで準備しました」。東京都の創業補助金や融資も活用し、2013年に個人事業としてスター
ト。2015年には八幡山にショールーム兼事務所を開きました。
ものづくりの軸にあるのは、流行に左右されず長く使えるもの。旭川家具との出会いを原点に、無垢材の魅力を大切にしながら、時を超えて愛される家具や空間を目指しています。創業時には初めてオリジナルチェアを制作。そこから試行錯誤を重ねて
発表した無垢材の椅子「ANPチェアⅡ」は2023年グッドデザイン賞を受賞。耐久性を高めながら、無垢材で柔らかなアール形状を実現し、安心感のある座り心地と美しさが評価されました。
また、仕事をする上で、小早川さんが重視しているのはお客様へのヒアリングです。「お話を細かに聞くのはもちろんですが、住まいの雰囲気や暮らし方、好みなど、言葉として語られるご希望以外のことも読み取って、その人に合った空間を提案しています」。現在取り組んでいるのは神奈川県の老舗、陣屋旅館の改装。ご依頼主はもちろん、宿泊客からも好評を得ています。
コミュニケーションが職場環境や
仕事のクオリティアップの鍵
アンプインテリアデザインでは、時短勤務やリモートワークを取り入れるなど、社員の働き方にも柔軟に向き合っています。そのきっかけの一つがコロナ禍でした。
2018年に法人化したのを機に、2019年には正社員4名を採用しました。ところがその直後にコロナ禍に見舞われ、経営が困難になる中、社員との関係性も悪化。そこから、働き方や社内コミュニケーションのあり方を見直したそうです。以来、年に3~4回は社員と面談して状況や希望を聞くほか、昨年度は社員旅行も実施しています。「退職率が大きく下がりましたね。社員が定着し、成長してくれたことで、仕事の質や生産性が上がりました。何より、私の気持ちが楽になりましたね。前は全部自分でやらないとと思っていましたが、互いの信頼度が増して、社員それぞれに仕事を任せられるようになったんです」。その成果は売上にも表れているといいます。
今後は住宅に加え、旅館やホテルの改修にもさらに力を入れていく考えです。
無垢の木のようにやさしく、長く愛される空間をつくりたい。その思いは、今、社員一人ひとりの思いとなり、質の高いものづくりへの大きな原動力となっています。

特集79-2 古きよき心を受け継ぎ今に生きる地域に根づく個人商店の新たな形
まちの暮らしを支える人気店を継ぐと決めた父への思い 「子どもの頃から毎日、親父の前掛けをつけて八百屋の手伝いをしていたんですよ」 そう笑うのは、瀬田で『八百源』を営む田中商店 取締役の田中修さん。 1957年、八百屋勤 […]








