特集80-1 やさしくも極上の一杯が伝えるコーヒーとエシカルの哲学

特集80-1 やさしくも極上の一杯が伝えるコーヒーとエシカルの哲学

世田谷線の車窓を流れる景色の中に、静かに佇む『梟焙煎研究所』の看板。この店が焙煎からカフェ営業、フードやスイーツの提供までを手がける『シュエット トレファクチュール ラボラトワール』です。フランス料理店で調理の技術を磨いた髙山健二さんがコーヒーショップの魅力に惹かれ、2017年に豪徳寺で開きました。商店街の温かな雰囲気を気に入ってこの地を選んだといいます。
 カフェへの転身は、持病のため、夜遅くまで働くレストランでの仕事を断念したことがきっかけでした。「当時はカフェバーのようなお店が多かったのですが、次第にコーヒー専門店が増えて、僕もコーヒーショップに勤めるようになったんです。コーヒーそのものの魅力に加え、レストランに比べてお客様との距離が近いサービスもすごくいいなと思いました」
 子どもの頃からの夢は、自分の店を持つこと。「昔はフランス料理をやっていたので、フレンチのお店をと考えていましたが、働き方を変えていく中で、今のお店になりました」。コーヒーはもちろん、こだわりのホットドッグやスイーツも人気です。

店の歩みを支えたブログと人と環境にやさしい選択

焙煎からカップに注ぐ瞬間まで温度にこだわる、髙山さんの“焙煎哲学”。そこから生まれる一杯は地元のファンだけでなく、メディアからも注目されています。「最初は全然お客さんがいなくて。集客につながったのは、地道にブログを続けたことですかね」。ブログの話題はコーヒーを軸に、世田谷のまちや世界情勢など多岐にわたります。中でも力を入れているのがサステナビリティについて。きっかけは、熊本県などで起こった豪雨災害やオーストラリアの山火事でした。「コーヒーを通して何かできないか」と考え、情報発信をするほか、オンラインショップで対象商品の売り上げの25%を寄付する仕組みを始め、店頭には募金箱も設置しています。
 

豆の仕入れでは、生産背景を確認し、環境負荷の大きい方法で作られた豆を選ばないよう心がけています。「とくにスペシャリティコーヒーは、トレーサビリティも確かなので、品種や標高、水質だけでなく、誰がどうやって作っているか
もわかります」。豆の精製時に使う大量の水や排水が川や下流の暮らしに影響する例もあるそうです。「水質汚染などの情報が次第に広まり、水をあまり使わないナチュラル製法などへ切り替える生産者も増えてきました」
 環境への配慮は、廃棄物にも及びます。「抽出後のコーヒーかすを除けば、廃棄物はほとんど出しません。焙煎や袋詰めで生じる豆の端数はブレンドして商品化しています」。マイボトルでの提供にも応じるほか、フードやスイーツも余らない量を見極めているそうです。

一方で、コーヒーの価格は上昇を続けています。「原材料が値上がりしても、消費者の価格の感覚はそれほど変わりません。安い原材料にしないと、以前と同じ価格では出せないですよね。おいしいコーヒーが飲めなくなる危機かもしれないと思っています。コーヒーだけでお店を維持するのは難しいので、店をたたむコーヒー屋さんが増えるのではないでしょうか」
 コーヒー文化を守るには、作る人、届ける人、飲む人の営みが無理なく続けられることが大切です。髙山さんは、生産者に無理を強いず、かつ品質を落とさず店を続けるために、コーヒーだけでなく、フードやスイーツとの組み合わせなど、店全体で価値を提
供する道を模索しています。
 エシカル消費は、特別な人だけが実践するものではありません。一杯のコーヒーを味わう日常の中で、どこで誰がどう作ったものかを知り、無理のない範囲で選んでいく。その小さな選択が、持続可能な社会へとつながっていきます。

価格高騰の先に見据える持続可能なコーヒー文化
特集80-2 木を切る前に、できることを - 守り、育む、世田谷の豊かな緑

「木のお医者さん」が守るのは自然と歴史と人の思い  世田谷区を拠点に “庭づくり”を担う、さくら庭園株式会社。2007年に植木屋として創業し、現在は個人宅から寺院、マンション、学校や公共施設まで、庭木の手入れや樹木の調査 […]

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