特集80-2 木を切る前に、できることを - 守り、育む、世田谷の豊かな緑

木を切る前に、できることを - 守り、育む、世田谷の豊かな緑

 世田谷区を拠点に “庭づくり”を担う、さくら庭園株式会社。2007年に植木屋として創業し、現在は個人宅から寺院、マンション、学校や公共施設まで、庭木の手入れや樹木の調査・診断など幅広く手がけています。
 創業者から引き継ぎ、令和7年4月より代表取締役に就任した赤尾正俊さんは、樹木の状態を診断し、治療や管理方法を提案する「樹木医」でもあります。元気を失った木の原因を探り、土壌の改善や病害虫対策などを自ら施します。
 「診断結果を依頼主に分かりやすく言語化して説明することも樹木医の重要な任務です。また、樹木の役割などを普及啓発していくことも大切な仕事と考えています」
 赤尾さんは長い年月を生きてきた古木を「簡単には切りたくない」といいます。
 「僕は樹木医を志したときから、木を治療し、元気にして長く守りたいという思いがありました。樹齢100年の木を切れば、それを戻すのにどれほど時間がかかるのか。切ってしまえば歴史はそこで終わってしまいます」。危険性を見極め、剪定や土壌改良によって樹木の寿命を延ばす方法を常に考えているのです。
 

「木のお医者さん」が守るのは自然と歴史と人の思い
「木のお医者さん」が守るのは自然と歴史と人の思い

最近は、代々大切にしてきた桜についての相談も増えているそうです。赤尾さんが現地に赴き、木の状態を確認して見積もります。「『今の大きさを保つのは無理かもしれませんが、下から元気な枝が出ているのでまだまだ持ちますよ』などと伝えると安心されるんです」。すぐには契約につながらなくても、丁寧な対応が信頼関係を築き、緑を守ることにつながっています。

 昭和女子大学では、世田谷区の保存樹木を含む多くの木々を管理しています。「木々は大学の歴史や格、景観を形づくる貴重な存在です」。木の状態や必要な処置をきめ細やかに説明し、大学側と可能な限り保存する方向で話し合っているそうです。また、昭和女子大学附属昭和小学校の生徒に樹木や環境について伝える授業にも協力し、子どもたちとサツマイモを植えるなど、植物に親しむ機会をつくっています。

 

世田谷の豊かな自然を未来へ地域に広がる緑を残し育む取り組み

倒木により利用を中止していた等々力渓谷では、石や丸太を使い、雨水を川へ直接流さず地中へ浸透させる環境改善にも携わりました。根腐れや斜面崩壊、都市型洪水のリスクを抑え、自然の力を生かす試みです。「今年3月の再開時には林が明るくなり、気持ちのいい空間になりました。大勢の人が訪れるのを目の当たりにして、環境がよくなると人も集まるのだと実感しました。ここで得た技術は他でも生かしていきたいと思います」

 人材面でも持続可能性への配慮がうかがえます。建設・造園業界の「休日が少ない」というイメージを払拭するため、「土日祝日は休みとしたんです。本当にこれで経営が回るのか、代表になって最初に計算したのがそこでした」。そしてシフト制による完全週休二日を実現し、年間休日122日を確保しました。業務にはチームで当たり、誰かが休んでも別の社員が対応できるよう、現場の状況を共有しているそうです。また、採用では年齢層や男女比のバランスを意識しています。働きやすい環境を整えることは、社員を守り、事業を長く続けるためにも欠かせません。
 国分寺崖線や社寺林など、都市にありながら豊かな自然が残る世田谷。さくら庭園は、目先の利益より木や人、地域との関係を大切にし、持続可能な事業活動を通じて、エシカルな選択を実践しています。人も緑も「消費」するのではなく「守り育てる」。その発想が自然と暮らしの心地よい距離を守り、地域の緑を次世代へとつなぎます。

持続可能な働き方を実現し人と緑を守り育てる
特集80-1 やさしくも極上の一杯が伝えるコーヒーとエシカルの哲学

フレンチの名店で腕を磨き豪徳寺でかなえた「自分の店」 世田谷線の車窓を流れる景色の中に、静かに佇む『梟焙煎研究所』の看板。この店が焙煎からカフェ営業、フードやスイーツの提供までを手がける『シュエット トレファクチュール […]

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